土壌医検定3級、2級、1級の試験問題はどのような問題が出題されているか
各級3問の事例問題を紹介します。
(各問題は、『新版土壌医検定試験既出問題集』より抜粋)
3級
①3級の過去の問題
3級は60分で三者択一50問のマークシート形式の問題が出題されます。合格ラインは50問中30問以上の正解となっています。
問1.リン酸吸収係数の記述の中で、間違っているものはどれか。次の中から一つ選びなさい。
①黒ボク土は、リン酸吸収係数が大きい。
②リン酸吸収係数が大きい土壌では、作物がリン酸を吸収しにくい。
③リン酸吸収係数が大きい土壌では、作物がリン酸を吸収しやすい。
問2.土壌微生物に関する記述の中で、正しいものはどれか。次の中から一つ選びなさい。
①一般に土壌微生物の中で細胞が最も小さいのは細菌で、次いで放線菌、糸状菌の順になる。
②普通畑で生体重、菌数ともに最も多いのは、糸状菌である。
③水田では、酸素の少ない土壌でも棲息できる糸状菌が多い。
問3. 野菜の施肥特性と管理に関する記述の中で正しいものはどれか。次の中から一つ選びなさい。
①ホウレンソウは、収穫期に向けて土壌中無機態窒素を漸減させながら、収穫期には一定の土壌中無機態窒素を残すようにする。
②トマトの栽培は、一般に節水栽培で行われ、土壌を乾燥させるとともに、カルシウムの吸収が高まり、品質の良い果実が生産される。
③ホウレンソウの茎葉の活性を維持するために必要な土壌中無機態窒素含有量は、硝酸態窒素で2mg/100g前後である。
解答 問1.③ 問2 . ① 問3.①
解説
問1リン酸吸収係数という用語が出てきましたが、用語の意味を問う基本的な問題です。リン酸吸収係数とは、土壌がリン酸を固定する数値をいいます。リン酸吸収計数が大きいと作物がリン酸を吸収しづらくなります。①の黒ボク土は、リン酸吸収係数が大きい土壌であるのが特徴です。
問2は、生物性の土壌微生物に関する問題で、②は、生体重がもっともあるのは糸状菌ですが、菌数が多いのは、細菌です。③は糸状菌ではなく、細菌です。
問3 ②は、土壌を乾燥させるとカルシウムを吸収しづらくなります。
③は2mgでは少なく、栽培終了時でも無機態窒素で5mg/100g程度の含有量が必要とされます。
3級は基本的な知識を問う問題が多いですが、中には具体的な数字を覚えていないと正解を得られない問題も出題されます。
②3級の出題傾向
3級は日本土壌協会発行の参考書『新版 土づくりと作物生産』(土壌医検定3級対応)から基本的に出題されます。参考書のご購入は日本土壌協会でお求めになれます。
3級参考書の分野別の出題割合
出題範囲 | 2012年~20年度の出題割合 | 直近3年 2021年~23年度の出題割合 |
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第1章 作物生育に合った環境整備を通じた栽培期間、栽培地域の拡大 (作物の作型) | 17% | 2% |
第2章 作物の健全な生育と土壌環境 (土壌の役割 根の働き 団粒構造 土壌の種類と分布) | 11% | |
第3章 作物生育と土壌の化学性 (CECリン酸吸収係数 腐植含量pH EC 腐植 窒素 リン酸 塩基飽和度 塩基類 ケイ酸 微量要素等) | 35% | 31% |
第4章 作物生育と土壌の物理性 (土層の深さ関係 有効土層 作土層 土壌硬度 仮比重pF 日減水深 土壌物理性関係の改善対策等) | 8% | 10% |
第5章 作物生育と土壌の生物性 (連作障害と土壌病害虫 土壌生物の種類〔細菌 放線菌 糸状菌〕と働き 土壌病害微生物 センチュウ等) | 9% | 15% |
第6章 土壌改良と施肥・灌水管理 (肥料〔窒素 リン酸 加里 石灰 苦土 微量要素等〕 の特性 土壌改良 有機質資材、堆肥、土壌改良資材の特性、施肥・灌水 肥料の種類と特性 灌水の効果等) | 15% | 11% |
第7章 コスト低減、環境負荷低減等を目指した土壌・施肥管理 (緩効性肥料、局所施肥、流し込み施肥技術、特別栽培と有機農産物等) | 5% | |
第8章 主要作物の生育特性と施肥管理 (作物別の施肥管理 水稲 ホウレンソウ タマネギ トマト ダイコン キク リンゴ等) | 9% | 10% |
第9章 土壌診断の進め方 (土壌診断の種類〔化学性・物理性・生物性診断〕 土壌サンプリング 土壌分析結果の評価等) | 7% | 5% |
「土壌の化学性診断と対策」からの出題が31%と全体の1/3を占めています。次いで「土壌の生物性」からの出題となっています。
2級
①2級の過去の問題
2級は60分で四者択一60問のマークシート形式の問題が出題されます。合格ラインは60問中40問以上の正解となっています。
問1. 作物の窒素吸収に関する記述の中で、正しいものはどれか。次の中から一つ選びなさい。
①一般に畑作物は、土壌中にアンモニア態窒素が多いと、根の活性、光合成等が低下し、一般に生育が阻害され、特にアブラナ科作物が影響を受けやすい。
②アンモニア態窒素は、マイナス電荷を有し、これが土壌中に多くなると、拮抗作用によりカルシウムやマグネシウムの吸収が低下し、作物に欠乏症が発生する。
③窒素の過剰吸収に伴うマグネシウム含有率の低下により、ハクサイやセルリーの芯腐れ症、キャベツの縁腐れ症が起こる。
④キュウリは、長期間連続して収穫するため、土壌中の無機態窒素が20mg/100gを下回らないよう一定に保ち、収量の低下を防ぐ。
問2. 政令指定の土壌改良剤の主たる効果に関する記述の中で、正しいものはどれか。次の中から一つ選びなさい。
①バーミキュライトは、肥料成分の吸着力に優り、土壌の保肥力の改善効果が認められている。
②泥炭類は、吸水性のある繊維の効果により土壌の保水性、膨軟化の効果が認められている。
③木炭は、多孔質でかつ吸着性を有することから、土壌の保肥力の改善効果が認められている。
④ベントナイトは、約70%のケイ酸を含み、水稲の茎葉を強固にする効果が認められている。
問3. 野菜の特性と肥培管理に関する記述の中で、正しいものはどれか。次の中から一つ選びなさい。
①タマネギは根が太く浅根性のため、リン酸の肥効が高い作物である。このため、有効態リン酸含量は、10~80mg/100gで高い収量が期待できる。
②キャベツは、太根と細根が良く発達し、深くて広い根域をもった深根性作物である。このため、乾燥と加湿には、比較的強い。
③キュウリは、浅根性であるが、塩類濃度と加湿には強い。栽培期間を通じて安定した養水分の供給が必要である。
④レタスは、浅根性で酸素要求量が多いため、排水性や通気性の確保が重要である。
解答 問1. ① 問2. ② 問3. ④
解説
問1 ②のアンモニア態窒素はプラスの電荷を持つので誤り。③はハクサイやセルリーの芯腐れ症、キャベツの縁腐れ症はカルシウム含有量の低下によるものなので誤り。④は10mg/100g程度なので誤り。
問2 「政令指定の土壌改良剤の主たる効果」を問う問題。①のバーミキュライトは透水性の改善、③の木炭は透水性の改善、④のベントナイトは水田の漏水防止。
問3 ①のタマネギは根が細く浅根性で吸肥力が弱いため、少なくとも土壌中の有効態リン酸含量が80mg/100gまでは、有効態リン酸の高まりに比例して収量が高まる。②キャベツは浅根性で乾燥と加湿の影響を受けやすい。③キュウリは、塩類濃度に敏感で濃度障害を受けやすい。
②2級の出題傾向
2級は日本土壌協会発行の参考書『新版 土壌診断と作物生育改善[改訂版]』(土壌医検定2級対応)から基本的に出題されます。参考書のご購入は日本土壌協会でお求めになれます。
2級参考書の分野別の出題割合
出題範囲 | 2012年~20年度の出題割合 | 直近3年 2021年~23年度の出題割合 |
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土壌・施肥管理の現状と制度 (土壌の生成と種類〔灰色低地土、黒ボク土等〕農耕地土壌の現状と課題 肥料に関する制度等) | 5% | 3% |
土壌の化学性診断と対策 (必須元素 CEC pH EC 腐植 窒素 リン酸 塩基飽和度 石灰・苦土・加里 ケイ酸 微量要素 pHの矯正 堆肥施用と肥料の削減等) | 34% | 29% |
土壌の物理性診断と対策 (土層の深さ関係 土壌硬度 土壌の通気性 pF値 日減水深 土性、土壌の種類の特性等 有効土層 作土層、仮比重、土壌硬度、排水性の改善) | 15% | 16% |
土壌の生物性診断と対策 (土壌微生物〔細菌 放線菌 糸状菌〕連作障害 土壌病害と病原生物 土壌生物性の測定・診断方法等) | 14% | 16% |
肥料・土壌改良資材・堆肥の種類と特色 (肥料〔窒素 リン酸 加里 石灰 苦土 微量要素等〕の特性 有機質肥料 土壌改良剤 堆肥等) | 18% | 17% |
主要作物の栽培特性と土壌管理 (作物の生育特性 水稲 麦 大豆 野菜 花き 果樹等) | 12% | 17% |
土壌診断と種類と進め方 (化学性・物理性・生物性診断 土壌サンプリング 処方箋作成等) | 2% | 2% |
「土壌の化学性診断と対策」に関して多く出題され、次いで「肥料・土壌改良剤・堆肥の種類と特色」
「主要作物の栽培特性と土壌管理」に関して多く出題されています。
1級
①1級の過去の問題
1級の試験は70分で四者択一50問のマークシート形式の問題(50点)と25問の記述式の問題(50点)が出題されます。業績レポート(25点)とあわせて全体の70点以上の正解となっています。
問1. 果菜類や果実類の生理障害に関する記述の中で間違っているものはどれか。次の中から一つ選びなさい。
①トマトで冬季に発生するすじ腐れ果は、アンモニア態窒素の過剰とカルシウムの欠乏で発生しやすい
②メロンの発酵果は、カルシウムの欠乏で発生しやすいので、応急対策として、塩化カルシウムを葉面散布する。
③リンゴのつる割れ症は、排水不良園で発生しやすいので、排水対策を行うことが重要である。
④キュウリのグリーンリング症は、アンモニア態窒素、リン酸やカリウムが過剰で、マグネシウムが欠乏した場合に、発生しやすい。
記述問題
問2. 土壌に施用されたリン酸は土壌中で固定され、作物の根から吸収されにくくなるが、吸収されにくい形態のリン酸について次の問に答えなさい。
(1)一般に最も根から吸収されにくいリン酸の化合物名(難溶性リン酸化合物)を三つあげなさい。
問3. トマトの果実の生理障害について、発生要因と対策について述べなさい。
(1)乱形果
①発生要因 :
②対策 :
解答
問1. ①(解説) トマトのすじ腐れ果はアンモニア態窒素の過剰とカリウムの欠乏で発生しやすい。
問2. リン酸鉄 リン酸アルミニウム リン酸三石灰
問3. (解答例)
①発生要因:低温条件にあることと肥料養分(アンモニア態窒素)が多く多灌水で樹勢が強いと発生しやすい。
②対策: 育苗初期から温度を確保し、施肥や水管理を控えめにする。
②1級の出題傾向
1級は日本土壌協会発行の参考書『新版 土壌診断と対策』(土壌医検定1級対応)から基本的に出題されます。参考書のご購入は日本土壌協会でお求めになれます。
1級参考書の分野別の出題割合
出題範囲 | 2012年~20年度の出題割合 | 直近3年 2021年~23年度の出題割合 |
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土壌化学性と農産物安定生産・品質向上 (pH EC 窒素 リン酸 塩基飽和度 交換性石灰・苦土・加里 ケイ酸 微量要素等) | 46% | 48% |
土壌物理性と農産物安定生産 (土壌硬度 硬盤 土壌排水性と土壌病害 センチュウ 灌水 深耕 堆肥等有機物施用) | 12% | 12% |
土壌の生物性 (土壌病害・センチュウ害 輪作体系 緑肥 対抗作物 土壌消毒等) | 11% | 15% |
生育環境の変化と土づくり対策 (水稲の高温障害と対策 野菜・果樹類の生理障害と対策) | 9% | 11% |
環境負荷軽減を目指した土づくり対策 (肥効調整型肥料 有機質資材 局所施肥 養液土耕栽培 有機栽培における土づくり・施肥) | 22% | 14% |
「土壌化学性と農産物安定生産・品質向上」からの出題が大変多く、次いで「環境負荷軽減を目指した土づくり対策」から多く出題されています。